豚の生肉は郷土の味

豚に罪はないが、とにかく豚がブレイクしている。


タイは鶏インフルエンザの時も、メディア上では大騒ぎだったらしい。タイは鶏肉の輸出国だから。
今回は豚に主人公が変わったが、やっぱりそれなりに騒がれているらしい。


政府が焦るのもわかる。
農業大国の田舎は家畜だらけなので、確かに彼らがインフルエンザになれば大変。
田舎の国道を走っていると、道ばたに鶏がうろつき、草むらでは鼻先をヒモでくくられた水牛が草をはむ。
豚は豚小屋の中に閉じこめられているけれど、時々「ドナドナ」状態でトラックの荷台に積まれた彼らの姿を見る。


私が住んでいたような田舎の場合、ドナドナたちは肉屋さんの裏庭で肉になる。
肉屋はあちこちにあるのだが、牛は牛専門、豚は豚専門と店ごとに分かれている。
市場で売られているのも、その日につぶしたばかりの肉。


タイ北部では生肉を食べる。
魚、牛肉、豚肉は生食可。
なぜか鶏肉や鶏卵は生食に適さないとされる。
彼らは「卵かけご飯!? 気持ち悪いなぁ」と言う。


生肉に唐辛子やニンニクなどをたっぷり入れてタタキにしたものを「ラープ」、タタキにせず、刺身にしたものと内臓の液(多分胆液)などでマリネ風にしたものを「サー」という。
ラープは魚も豚も牛もあり、生だけでなく火を通してそぼろ風にしたものも美味い。


しかしさらに豚の場合、生血に生肝などを混ぜ込んで食べる。現地の言葉で「ルー」という。
「ルー」の血の部分

「ルー」に入れる、肝の刺身


ウィキペディアに単独の項目はなかった。
グーグルで検索してみると、次のような記事が最初に出た。(原文タイ語 →リンク


豚の生肉から作るラープやルーは、豚の血を混ぜあわせたりもする北部の郷土の味だ。
しかしこの手の料理は食べる人に、おもわぬ被害を与えることがある。雨期などに多く見られる「豚レンサ球菌(Streptococcus suis)」を持っていることがあるからだ。


私の周りの人も、この手の生肉を食べる人と食べない人に分かれていた。
健康に気を遣うタイプの人は「危ないから食うな」という。
でも、おっさんたちは盛んに「生肉を食おう」と私を誘う。
こちらは大体「酒を飲もう」という誘いと同義語。
だからおばさんたちはいやがるのかもしれない。


ウィキペディアの「ラープ」の項目の英語版の中には次のように書いてある。


ラープの一種に、生の牛肉のミンチと血、胆汁、スパイスを混ぜ合せたルーがある。
ルーは通常野菜と一緒に食し、しばしばビールや「ラオカオ」とよばれる密造酒と一緒に出される。
(There is a kind of larb called lu, which made of minced raw beef mixed with blood, bile and spices. Lu is usually eaten with vegetables and often served with beer or the local moonshine called lao khao.)


私が食べたのは主に豚のルーだったが、状況は同じだ。
ウイスキーの水割りの時もあったが、とにかく酒と生肉はセット。
酒が消毒してくれるから大丈夫、というのがおっさんの意見。
私も多少腹を壊すことはあっても、それ以上の被害を被ることはなかったから、多分、正しいのだと思うことにしている。


文中にも引用したが、「ラープ」についてはウィキペディアに項目がある。 →リンク
しかしなぜかタイ語と英語で内容が違う。
英語版では「Larb is a type of Lao meat salad. (略) Larb is the unofficial national dish of Laos and it is also popular in Northeastern Thailand, where the cuisine is heavily influenced by Laos. It is quite common to see this popular Lao meat salad served at Thai restaurants.」とあり、ラオス料理だということになっている。
一方、タイ語版では「イサーン(東北部)や北部(ラオスを含む)の郷土料理」と書かれていて、ラオスはカッコに入れられてしまっている。
このあたりの正当争いには微妙なところがあるらしい。
ちなみに私が住んでいた地域のラープは「地場のスパイスを使っていて激辛」と説明されている。