校長先生とその日2度目の夕食を食べてから、帰ってきたのが8時ごろ。
満腹でもう眠たかったが、雨も都合よくやんでいたので、予定通り出発。
隣の県まで続く国道は、集落と集落の間は真っ暗。
国道なので、道はきれいで、明るい時は楽しくとばせる道だが、今はゆっくり走る。
そのうちに目もなれてくるだろう。


※今回の旅の参考地図※
より大きな地図で My Pen Writes を表示


そうこうしていると路上に、竹ざおのような棒が落ちていた。
避けられないので、迷わずそのまま踏む。
「ぐにゃ」とした感覚が、前輪から伝わってきた。
へびだな、と踏む前に思っていた。
1メートル以上はあったので、多分「ングー・ハオ」というデカイやつだ。
時々、農家のあんちゃんが、ぶら下げてバイクに乗っているのを見かけるから、たくさんいるのだろう。
辛く味付けして炒めると美味いが、鎌首を持ち上げたところのかたちから察するに、多分コブラの一種。毒もあるらしい。


振り返って、何を踏んだのか確かめるのも面倒だったので、そのまま行く。
県境の手前にある検問所はいつもどおり素通り。
そこからしばらく上り坂を行くと県境。
そこには小さな祠がある。
ドライバーはクラクションを鳴らし、信心深い同乗者は拝む。
私に信心はないが、時々鳴らす。
暗闇に、薄っぺらいクラクションの音が、小さく響いた。


県境からは下り坂。
走りながら「昔、ここを通った時、とおり雨が降ってきたな」などと思い出す。
帰り道に対向車線に飛び出しそうになったコーナーも。


30分も走れば、山道を抜ける。
ここで出発してから、最初の信号に出会う。
ロンクワン(Rong Kwang)から30分くらいは、片道2車線のハイウェイ。
車なら100キロ超で走れるが、小さなバイクなので80キロ程度で。
それでも30分くらいでプレー県の市街地に入る。
市街地に入る手前で、また警察の検問。
国際免許証を見せると「どこに行くんだ」と警官。
「今日はプレーに泊まって、明日チェンマイに行く」と返答すると「何で行くんだ」と続ける。
「このバイクで行くさ」というと「へぇ、これで。遠いぞ」と不思議そうな顔をする。
これは、いつもの反応。
彼らにとって125CCのバイクは旅の道具ではない。近所までの下駄だ。


イギリス資本のスーパーマーケット、テスコ・ロータスの前を通ると、22時閉店とある。
携帯電話を出して時計を見ると、21時40分。
ありがたい、歯ブラシを買いたかったので、急いで店内に入る。
レジでだべっている女の子に「どこにあるかな、歯ブラシ」と聞いて、購入。


バスターミナルを越えて、市場の近くには漢字の看板が多い。
その中に多分「旅社」と書いてあったはずだ。
それが安宿のしるし。
1泊100バーツ(約290円)。
安いが、部屋は汚い。
とりあえず、水を浴びて、一息つく。
久しぶりに来た町なので、前に行った飲み屋に行ってみる。
私の顔をみたオカマのおっさんが「あら、あなた覚えてるわよ」と言う。
「私もあんたを覚えてるよ」とおっさんを眺める。
「でも、ほかの娘たちはいなくなってるね」と聞くと「そうねえ、みんな田舎に帰っちゃったわね」とのこと。
ふーん、と思いながら、氷を入れたビールを飲んでいると、すっかり眠たくなってきたので、そうそうに退散した。


翌朝、7時前には目が覚めた。
夜は気がつかなかったが、ホテルの隣はバイク屋で、部屋のすぐしたに作業スペースがある。
すでに仕事は始まっていた。
ジャッキアップされたバイクを横目に、スタート。


国道に出る前、ガソリンを満タンにした。
満タン入れても4リッターくらい。100バーツ入るかどうか。
山を抜けた向こうにある次の町は100キロ程度離れている。
さらに今日の目的地のチェンマイはここから200キロくらいの距離だ。
予定到着時刻は11時。
空を見上げると、少し曇っていた。
雨季はまだのはずだが、昨日も小雨がぱらついていた。
降らなきゃいいのにな、と思いながら再スタート。


市内から出る道が国道に合流する。
信号のところの道路標識には、左折すれば「デーンチャイ(Den Chai)」とある。
デーンチャイまでは、2車線のハイウェイ。
デーンチャイにある曲がり角を南に下れば、バンコクまで続く。


デーンチャイには、鉄道の駅もあるが、これは国道から少し離れたところにある。
デーンチャイの交差点には「ようこそ、ランナー王国へ」と書かれた大きな看板がある。
ランナー王朝とは北の都チェンマイの王権のことだ。
南部のスコータイやアユタヤなどとは別の国だったわけだ、厳密には。
意地悪な私は「ランナー王国の王様は、今、どこにいるのだろう。葦原将軍とか熊沢天皇みたいなことには、ならないのかねぇ」とか思いながら、この交差点を北に向けて直進した。


曇っているので、涼しい。むしろ少し寒いくらい。
国道には数百メートルごとに道路わきに次の町までの距離を書いた路標を見る。
地名はタイ語で書かれているが、何度も同じ地名を見るので、一度では解読できなくても、そのうち読めるようになる。
最初100以上あった距離が、そのうち50になり、20以下になる頃、ガソリンが減ってきた。
ガス欠にはならない計算だがなあ、と思いながら、抑え目に走って、何とかラムパーンに到着。
山を越えて、町が見えたところにあるガソリンスタンドで給油。
ついでに小雨がぱらついてきたのでカッパを着た。


ガソリンスタンドのところに、これも1時間ぶりくらいの信号がある。
直進すれば市街地、左折すれば市街地に入らずに次の町まで続く国道に抜けていく。
用事もないので、ラムパーンは素通りして、左折。


ラムパーンからチェンマイのすぐ南にあるラムプーンまでは山の中の道であることは同じだが、ずいぶんと立派な道が多い。
北の都チェンマイに近づいてきたことを実感できたりするが、油断しているとガソリンスタンドがなかったりする。
ラムパーンからチェンマイは100キロちょっとなので、給油なしでいけるぎりぎりの距離。
チェンマイの手前にはラムプーンがあるので、さっきみたいにガス欠を気にする必要はないので、安心。


チェンマイに向かう道で、再度大きな坂道を登る。
古いトラックやバスがゆるゆると走るのを尻目に急ぐ。
この山を越えてしばらくするとラムプーン、さらに田んぼの中を走る直線のハイウェイを30分くらい行けば、チェンマイに至る。


チェンマイの町を取り巻くハイウェイから、旧市街に入るには、ちょっとしたコツがいる。
私はチェンマイ駅の近くにあるホテルに泊まる予定だったので、駅を目指す。
適当に曲がったら、少し北に行きすぎていた。
方向さえわかれば後は簡単なので、ホテルにすぐついた。


一泊300バーツ(約600円)。
市街地からは少し遠く、外観は少々古びているが、部屋はきれいで、ケーブルテレビ完備、クーラーもついてこの値段。
同じ値段で扇風機しかなくて、門限まであったりするゲストハウスなんぞに泊まる気がしなくなる。


荷物をとりあえず部屋の中に入れようと、エレベーターで3階に。
あまり頭を使わずにエレベータを降りてすぐの扉があいている部屋に入った。
荷物をおいて外に出て鍵を閉めようと思うと、鍵が合わない。
もらった鍵は312号。部屋番号は322号。
おや、間違えた。
フロントに行って、あいてる部屋にはいちゃったけど、そっちでいいかい?と聞くと簡単にOKが取れた。
フロントのおばさんが「だめよぉ。かわいい女の子の部屋に間違えて入ったら」と、ニヤニヤ笑いながら、新しい鍵をくれた。