そもそもチェンマイには人に会いに行ったのだ。


日本からメールして、電話番号と住所を聞いた。
タイについてから電話をして「明日、昼の1時過ぎにお宅に伺います」と約束した。
家はチェンマイ・ナイトサファリの近く、という。
看板は見たことがある。空港の近くのはず。
近くまで行けば、何となく場所はわかるような気がしていた。
地図を見るのは、嫌いなのだ。特にバイクの時は。


ホテルのフロントのおばさんに「ナイトサファリってどこでしたっけ」と聞くと、薄汚れた地図を出してきて、あれこれと説明してくれた。
が、人のよいおばさんの説明はあまり役には立たなかった。
そのまま出発。


鉄道の駅からナイトサファリへ行くには、旧市街の外側を走るスーパーハイウェイを使えばいい、と今はわかる。
でも、おばさんの説明ではそこまでわからなかった。
少し遠回りになっても、わかりやすいように旧市街を東から入って南に抜けて空港を目指す。


ナイトサファリの近くに行くと、路標に村の名前が出てきた。
村まで5キロ、とある。
途中から片側2車線の道が、1車線ずつになり、大丈夫かと少し不安に思うが、そのまま直進。
知人の住む場所は、新しく宅地造成された場所らしい。
道沿いに派手な看板が立っていた。
近いかなと思うが、たどり着かぬまま、路標の距離表示がゼロになった。
要するに、私はすでに到着している。


しかたない。
小さな駄菓子屋らしき家に入り、店番のおばさんに聞いてみる。
住所を書いた紙を見せるが、おばさんは読めない。英語表記だったからだ。
私のいい加減な発音で、やっとこさ地名が伝わったが、おばさんは「そんなところ、知らんなぁ」と言う。


もう少し先か、とバイクを走らせると、警官の詰め所がみえた。
尋ねる。
すると警官のおっさんが「ああ、それなら、ちょっと戻ったところ」という。
進行方向に向かって左側だ、と教えて貰い、急ぐ。


なるほど、田んぼの中に突然、宅地造成された場所が現れた。
近くに行くと、住宅地の入り口には門番がいる。
高級住宅地なんだな、と思っていると、なぜかニコニコしている門番が「なんだい」と私に問う。
「知り合いの家に来たんだ。日本人がいるでしょ。」
住所を書いた紙を見せる。
「ああ、それなら、こっちだ」と門番はわざわざ案内してくれた。
いくつも家がある中の、一軒の前でとまると、その音に気がついたらしく知人夫妻は外に出てきた。
「すみません、ちょっと迷って遅くなりました」と、私が頭をさげると「よく1人でこれたねぇ。何で来たの?」とおじさんが聞くので「アレで」と愛車を指差すと、やっぱり「へぇ」と驚かれる。


いろいろ雑談。
早期退職で夫婦でチェンマイに引っ越してきた2人の話を面白く聞く。


途中からご飯の話。
「タイ料理でお勧めは何?」と聞かれる。
しかし、おばさんは、辛いものがダメで、パクチーコリアンダー)がダメで、癖のある味のタイ料理も苦手だという。
うーん、選択肢が狭まりますね、といいながら、時間はちょうど5時過ぎ。
8時にタイ語の家庭教師の女子大生が来るというので、少し早いが夕食に行こうということになる。


旧市街まで愛車のヴィッツ(海外だからヤリス)に乗せて貰う。
新車でこの車を買うとき「この値段だったら、でっかいピックアップトラックが買えるのに、どうしてこんな小さい車を買っちゃったの?信じられない」と、タイ人の友達に言われた、とおばさんが笑っていた。
そうだ、この国の人々の感性では、車はデカイほど偉い。


旧市街にある焼き鳥の店に到着。
キレイな店で、英語のメニューがある。
食べたことがない料理を注文してみよう、ということで、海鮮春雨サラダ(ヤム・ウンセン・タレー)と空芯菜炒め(パッド・パクブーン)を頼む。

ヤム=すっぱい、すっぱいサラダ
ウンセン=春雨
タレー=海
パッド=炒め
パクブーン=空芯菜
タイ料理の用語の解説

ヤムウンセンの唐辛子は抜いて貰ったが、パクチーを抜いて貰うのを忘れていた。
一口食べたおばさんは「ああ〜〜」と苦々しい声をあげた。

店の場所。黄色い道に四角に囲まれている部分が旧市街の外延。左上の角から少し下った所に病院。その少し南に、レストランがあった。
店の名前は「ルアムチャイ、ガイヤーン-ソムタム(RuamChaiGai yang-Somtam」(焼き鳥とソムタム店、ルアムチャイ=協力)って感じの店名だと思う。
でも、ルアムチャイって店名かどうかはわからない。



食事を終えて、おじさんが修理を頼んでいたという時計屋に行く。
普通の壁掛け時計だが、修理できるというので頼んでみたらしい。
望みどおり修理は完了して、確か150バーツ(450円)。
「電池も代えて貰っちゃった」とおばさんは喜んでいた。


再度、郊外の高級住宅地に戻る。
田んぼのど真ん中に突如あわられる住宅地。
「次はいつになるかわかりませんが」と挨拶して、バイクにまたがる。
田んぼの中の道は、すでに真っ暗になっていたが、程なく街中に入る。


すっかり暗くなった市中。午後8時過ぎ。
もう1人の知人に電話をかけてみる。
「おーい。元気か?仕事中か?」
「そうそう。仕事中よ。」
「明日の昼間、暇なんだけど」
「じゃあ、2時過ぎに電話してよ。その頃には起きてるから」
昨日も電話かけておいたので、そういう約束になっていたのだが、この国の人たちは気まぐれだ。
ホテルへの道すがらに、彼女の仕事場はある。
ついでなので寄ってみる。


店の外で座っている人たちに聞いてみる。
「ミンは中?友達なんだけど?」
「あ、そう。呼んできてあげるわね」
しばらくして、出てきた。
「あら、来たの?」
「元気そうだな。仕事中だな。明日、また電話するよ」
なんだかこってり塗りたくっていた。
翌日聞いたところによると「店の化粧担当のオカマさんが、こってりと塗りたくる」のだそうだ。
仕事の邪魔をするのも悪いので、「じゃあ、明日」と辞する。
でも、まだ9時。
夜は長い。