朝、8時半。
しばらくの間、泊めて貰う予定の知り合いの家に到着。
隣の県まで続く国道沿いにその家はある。


数ヶ月ぶりに会うおばさんに挨拶。
高校生の娘はすでに登校していた。
娘に特別に用はないが、娘に預けておいた私のノキア製携帯電話に用があった。
おばさんに聞くと、最近は娘がその携帯電話を使っているという。
彼女は私が前に働いていた学校の生徒。
学校から帰ってくるのを待つのも面倒。
挨拶方々、学校に行くことにする。


門番をしている警備員のおっさんに挨拶。
どこから先に行っても良かったが、一番手前にあった社会科の教員室に行く。
教員室にいた先生に「お久しぶり」と挨拶。
「6年2組、どこにいますかね?」と聞く。


タイの学校は、中学1年から高校3年までが、同じ学校にいる。
義務教育は中学3年までだが、中学1年を1年生、高校1年を4年生、という。
私が探す娘は、高校3年生なので、6年生。


時間割をみると、彼女はもうすぐ私がいる校舎にやってくるらしい。
教室を移動する生徒たちを眺めながら待つ。
教室間を移動する生徒たち


学校にもよるが、タイの大きな学校では、生徒が科目ごとに教室を移動する。大学のようなものだ。
学校が大きくなると、移動距離も大きくなる。
勿論、生徒たちはのんびりと教室の間を移動するので、開始時刻が曖昧になるのは仕方ない。
しかし、そもそもこの国の学校では時間通りに授業を開始することが不可能な理由がある。


タイの学校には休み時間が存在しない、のだ。


例えば、1時間目が8時半から9時半だとすれば、2時間目は9時半から始まってしまう。
授業は終了時間に合わせられるので、1時間目を9時半に終了した生徒たちが、次の科目の教室に移動し勉強し始めるのは10分以上してから、ということになる。
先生たちもそれを見越しているので、時間通りに教室に行くなどという野暮な真似はしない。
生徒がやって来ることを見計らって、えっちらおっちら教員室から教室へ出向くのだ。
留学生やタイの学校で働く外国人教師は例外なく、この不思議な時間割に面食らうことになる。


本館と校庭


6年2組の連中は、彼らが中学3年生の時に教えたことがある。
顔見知りも多い。
すっかりおっさん顔になったヤツが「オハヨー、先生」と私の顔をみて挨拶をする。
「おう、優秀だな」と答えて、娘の所在を聞くと「ああ、もうすぐ来ます」との答え。
その通り、娘はやってきた。


親戚のおっさんに会った時のような恥ずかしそうな顔する娘に「おい、俺の携帯はどうなってる」と聞くと、娘は「あ、ここに」と取り出す。
「で、俺のSIMカードはどこにあるんだ?」というと「わたしの机の上の・・・私にしかわからない所にあります」という。
仕方ない、じゃあ学校から帰ったら、どの携帯にでもいいから、俺のSIMカードを装着してくれ、と頼む。


タイの携帯電話は、ほとんどプリペイド式。
携帯電話の会社は3つか4つくらいあるが、携帯電話屋に行ってSIMカードを買い、SIMカードを手持ちの携帯端末に装着すれば、使用できるようになる。
SIMカードは大体100バーツ(約300円)もしない。
各携帯電話会社ごとに料金プランは色々あって、私は使用頻度が低いので、1分2バーツ(約6円)の標準プランを選ぶ。
1度電話料金を入金すると1年間使うことが出来る。
通話料金の安いプランでは1度の入金を使える期間が短く設定されている。


携帯電話の本体をかえなくても、SIMカードを交換するだけで簡単に番号を変更できる。
そのためタイ人は頻繁に番号を変える。
そういう事情があるからか、タイ人は全然知らない番号からの着信でも、必ず出る。
知らない番号は着信拒否、という文化はないのだ。


相手だけでない。時すらも選ばずに着信にはこたえる。
例えば、授業中でも先生は携帯電話にこたえる。
時計代わりに私も携帯電話を教室に持ち込んでいたが、たまにかかってくると生徒が「先生、出て下さい」と言う。
さらには式典の最中でも、かかってきた電話には出る。
講演会の途中で「今、講演中だから、後でかけ直す」と電話に出て説明した講演者を、私は見たことがある。


とはいうものの、タイ人は普段から小さな声で穏やかに喋る。
携帯電話でも同じように小さな声で喋るので、バスの車内やレストランで通話している人がいても、あまり邪魔な感じはしない。


本館内部


用事も終わったので、階下に行くと4年1組がいた。
2年前、私はこのクラスの副担任のまねごとみたいなことをしていた。
確かにほぼ全員の顔に覚えがある・・・が、名前はかなりの部分忘れている。
意地悪なヤツは「先生、あたしの名前、覚えてますか?」というので、胸の刺繍を指さして「ほら、ここに書いてあるじゃないか」と返答。
タイの学生の制服には生徒の名前が縫いつけられている。
名前くらいは読めるので、こういう場合は助けになる。


数学の授業だが、教室に先生はいない。
1時間、ひたすら黒板に書いてある方程式をノートに写して、その授業は終了。
先生は最初と最後にちょっと説明しに来ただけだった。
成績順に1組から8組ぐらいまでクラス編成してあり、このクラスは優等生ばかりが集まっているので、こういう授業でも十分にクラスは成立する。


ついでに各教員室に行って挨拶。
ひとまず皆に挨拶したので、帰ろうと校門の所に行くと、飲み仲間だった用務員のワンチャイが草刈りをしていた。
「おーい、元気か?」と聞くと「ああ、先生」と汗まみれの顔を出した。
どうだい、最近も飲んでるのか?と聞くと、「へへへ」と笑う。
「俺がこっちにいるうちに、いつものように牛肉の刺身で一杯やろう」と誘うと、「いいねぇ」とワンチャイは笑った。
「俺は、今日からチェンマイに行って、金曜には帰ってくるから、その夕方に。みんなに言っておいてくれ」といって学校を後にした。
各校舎の間には木