My Pen Writes

店主から「タイでの生活について書け」との命令。
ということで、4年間のタイでの生活について、少しずつ書きます。
よろしく。

私が住んでいたのは、タイの北部、ナーン県。
首都バンコクからは大体600キロ、夜行バスで一晩。
関西空港からバンコクまで直行便で6時間。
バンコクの空港から北部行きバスターミナルまで1時間。
当時の私にとっては、バンコクの方が日本よりも遠かった。

ナーンは山の中。
山から流れ出た小さな川が集まり「ナーン川」になる。
ナーン川は南に下っていきやがてチャオプラヤ川となる。
バンコクから遠いだけでなく、掛け値なしの田舎だった。

このナーン川の近くにある学校で、私は現地の中学生や高校生に日本語を教えていた。

ということなのだが、なにぶん最初なのでタイトルについて説明しておく。
店主にはタイ語のタイトルを考えろ、と言われたのだが「My Pen Writes」。
なぜ?

これは私が考えた下手な語呂合わせだ。
日本でも有名なタイ語のフレーズ、マイペンライ
「大丈夫・気にしないで・結構です」とかいう意味。
マイペンライ=My Pen Writes……たぶんタイ人ネイティブには通じないと思う。

これにはいちおう由来がある。
ある日の夕方、友人がやってきて「ノルウェー人の友達が来てるから、一緒に飯を食いに行こう」という。
もしかしたらデンマーク人だったかもしれないが、とにかく北ヨーロッパの紳士だった。
彼は、退職後、医者の勧めで、定期的に避寒のためにタイにやってくるのだという。
いかにも上品そうな奥さんも一緒に。

今年53歳になる筈の私の友人が、この紳士とどこで知り合いになったのかは知らない。
家に迎えにきた友人のハイエースに乗り込み、彼らが宿泊している市内のホテルに向かった。
友人はタイ人の中でも時間にルーズな方だったので、30キロ離れた市内に向かう道の半ばで、すでに約束の時間を過ぎていた。

田舎といえど、市内にはいくつかホテルがある。
紳士が宿泊するホテルに行き、老夫婦をひろい、我々は川沿いのレストランに行った。
確か名前は「リバーサイド」。
その名の通り川沿いにある店には、小さなステージがある。
定刻になるとフォークギターを持った近所の兄ちゃんがやって来て、演歌っぽいフォークソングを歌う。
こういうレストランは多い。
老若男女を問わず、タイの人は呆れるほど歌好き。

紳士は辛い物が苦手だというが、このレストランには辛くない料理もある。
氷を入れたビールを飲みながら、焼き飯、タイ風春雨サラダ、トムヤムスープ、魚のフライなど。
最初に「辛くしないでくれ」と言えば、手加減してくれる。
それでも生唐辛子を噛んでしまうと辛い。
白身魚のフライには、レモン、ナンプラーパクチー、赤と青の生唐辛子、生姜、ピーナッツなどをミックスしたソースがかかっている。
魚はナーン川でとれたもの。

食卓の共通語はたどたどしい英語。
紳士は「私はこの5年の間、何度もタイに来ているのに、全然タイ語が覚えられないんだよ、もう年なのかな、あれなんだっけ、Never Mindっていう意味の………ああ、そうマイペンライ。何度聞いても覚えられないんだよ。なんかいい覚え方ないかなぁ」と、こぼす。
私もすっかり記憶力が落ちているので、その気持ちは痛い程よくわかるのだ。
そこで考えたのが「My Pen Writes」。
下手な語呂合わせ。

その後の老紳士の事は知らない。

ナーン県に関するウィキペディアの説明は以下の通り。→リンク