前回書いたムエタイ会場での小バクチの風景。
しかし、実際のところ、その他の場所ではあまりバクチを観ることはなかった。
都会に行けば、お金持ちが出入りする闇の賭博場があったりするのかもしれないが、それは私には全く関係のない世界。
要するにチンチロリン花札のようなものはみたことがない。


ただ、バクチではないが、タイの人々は、宝くじが大好きだ。
道ばたでも売っているし、レストランなどにいくと、どこからか宝くじを持った老若男女が「宝くじ、買いませんか?」という言葉とともに通り過ぎていく。


ところがある日の放課後、用務員の部屋でビールを飲んでいると、彼らが小金を集めている。
酒を買い足すのかと思って財布を出すと「違う」という。
じゃ、なんで金あつめてんだ、と聞くと、数字にかけてるんだよ、との答え。
要するに、公的な宝くじの数字を使って、私的に宝くじをやってるらしい、と理解。
「先生もかけろ」と言うので、5バーツ(15円)を出して、適当に数字を言ったが、はずれたらしいことは後日知った。
用務員の連中も、せいぜい20バーツをかけている程度で、当たろうがはずれようが、大した儲けはない。


とはいうものの、5バーツは私にとってはそれなりに意味のある金額だったのだ。


毎日5バーツのコインを握りしめて市場に行く。
自転車をこぐこと5分。
到着。
そして1袋5バーツのお菓子を買う。ときおり2袋。
他の市場では大体10バーツだったが、なぜか近所の市場の、婆さんが売るお菓子は5バーツだった。


基本的には餅のお菓子。
ココナッツの果肉やココナッツミルクが主な具材。
餅米の米粉を蒸してお餅にしているらしい。
基本的には甘いお菓子だが、あまり甘くない大豆や何やら甘くない具(詳細は不明だがココナッツの果肉らしい)が入っていることもある。


カノムグルア
バナナの葉っぱに包んで蒸したお餅。
ココナッツの果肉を甘く煮た具が入っている。


緑の色は食紅らしく、たまに失敗なのか、青い色になっていることもあった。
勿論、味は一緒だが、緑青を食ってるみたいで不気味だった。
しかし、タイ人は気にしない。


とにかく毎日のように市場に通って、5バーツのお菓子だけを買って帰る日本人を、不思議に思ったらしい。
婆さんは、そのうち売れ残りそうなお菓子をおまけで入れてくれるようになった。
有り難いが、1人暮らしの私に2袋のお菓子。
食べきるのに苦労した。


小さい村の市場での私の行動は筒抜けなので、多くの人に「あんた、あそこのお菓子ばっか、食べてるらしいわね」と言われる。
その度に「そうそう、あれが好きなんだよね」と答えたが、ほかの場所で買ったお菓子と、それほど味に違いがある訳ではなかったので、婆さんの味が好きというよりは、毎日の習慣みたいなものだったのだろうと思う。


いずれにせよ、片道5分の自転車こぎでは、お菓子1袋分のカロリーを消費できる筈もなく、当時の私の腹回りには、お菓子起源の脂肪が沢山ついていたに違いない。